ミゼット・サブマリンの使われ方

 

そもそも潜水艦は、その費用対効果の高さが売りだった。水中をこっそり忍び寄り、水上戦闘では到底敵わないような巨艦を撃沈する。その後、通商破壊戦などに効果があると認められ海戦の表舞台に姿を現す。乱暴にいえば、ミゼット・サブマリンは、初期の潜水艦の目的を達成するためにのみ、小型化された潜水艦と言える。ただ、小型化は、発見されにくい、探知されにくい、資材の節約になるという利点の他、機能を切り詰めざるを得ない(特に武装、航続距離、速度)他、故障の多さ、基地施設などに対する依存性の高さなど数々の欠点も存在する。中でも最大の欠点は、航洋性の悪さだろう。船体を小さくしたため、どうしても波に翻弄され、運用は天候に左右されてしまう。

こうした兵器は利点のみを活かし、欠点が問題にならない環境で使用することこそが、肝要である。

 ベストに近い使われ方をしたのは、やはり、イタリアのマイアーレ、イギリスのX艇だろう。停泊中の艦艇、船舶を攻撃するため、水中破壊工作員と爆薬、機雷の輸送という限定した目的に使用した。イタリアの場合、大戦初期という時期や波の穏やかな地中海環境、あまり警戒厳重とは言えなかったイタリア降伏後の港湾警備のドイツ軍、ファシスト・イタリア共和国が相手だったのも幸いした。イギリスの場合、北海のティルピッツ攻撃は、北海という厳しい環境のため、犠牲が多かったが、弱っていた日本の重巡攻撃、ケーブル切断などは、時期と環境、用法を得たものだった。

 ドイツは、ダメなら次を、という感じで、次から次へと基本的には魚雷のエンジンを使用した人間魚雷、可潜艇(ネーガー/マーダー、ビベル、モルヒ)を開発しまくった。しかし、十八番の集団運用にもかかわらず、大した戦果はあがらず、犠牲のみ多かった。(潜水艦の通信インフラにも投資を惜しまなかったドイツだが、必要最小限の装備しかないミゼット・サブマリンでは、通信による連携をどう考えていたのだろう?)終盤のUボートをそのままスケールダウンしたゼーフントのみが、辛うじて潜水艦の先駆国たるドイツの面目を救ったと言えよう。

 最も多種多様なミゼット・サブマリンを開発、試作、建造したのが日本である。

艦隊決戦における漸減作戦に基づいて文字通り秘密兵器の甲標的を開発したが、しかし、その機会は無く、真珠湾他、泊地襲撃に転用された。確かに心理的な打撃を与えることには成功し、いくばくか戦果をあげたが、ほとんどが未帰還となった。フィリピンでは、戦果ははっきりしないが、地の利、練度、指揮官、戦術など、すべての条件が揃い、損害は少なかった。これらを鑑みると甲標的による作戦は、本当に不可欠のものだったのだろうか疑問を抱かざるをえない。追い詰められた状況下で期待された回天は、いかに炸薬量を大きくし、また、人間を誘導装置としたとしても、泊地襲撃、洋上襲撃とも、そう簡単に戦果をあげられるものではなかった。非人道性云々よりも、本当に必須の兵器だったのか検討する価値があるだろう。泊地襲撃は回天の小ささをもってしても困難であり、同じく帰還の可能性が低いとしても通常潜水艦による洋上襲撃を上回る利点があるとは思えない。(あるとしたら、駆逐艦等に制圧された場合、損害が搭乗員のみですむ、という消極的なものくらいだろうか。しかし、回天は母潜の足も引っ張るのである)末期の蛟龍、海龍をはじめとした特殊潜航艇も、基地依存性の高いものであり、艇が生き残っても、基地施設が空襲にさらされることを考えると、本土決戦で活躍できたかは怪しい。理想的な集団運用がなったとしても、通信、連携の不備から大戦果をあげることは難しかったのではないか。

 登場が遅くなり泥縄の感は否めないが、運貨筒などは、そう的外れなものではなかった。通常の潜水艦を輸送任務に当てるなど、無駄遣いにもほどがあるが、案外、輸送用の潜水艦、潜水艇というのも悪くないアイディアであるかもしれない。ちなみに時期と場所を得なかったが、海軍は丁型、陸軍は丸ユという輸送潜水艦を建造している。それでも、余裕があれば欲しい兵器といったところだろうが。

 厳しい言い方になるが、日本は、ミゼット・サブマリンに長期間、労力や資材、人材などを投入したにも関わらず、それに引き合う戦果は得られなかったと言える。

 二次世界大戦では、アメリカ、ソ連は、いかなる形でもミゼット・サブマリンを用いなかった。

ソ連は、量的には最大の潜水艦戦力を誇っていたが、地上主体の独ソ戦や錬度の問題もあり、潜水艦は活躍できなかった。ミゼット・サブマリンを使用する必然性もない。アメリカは、別に独立戦争や南北戦争での刺し違え攻撃に懲りたわけでもあるまいが、リスクの高いミゼット・サブマリンには手を出さなかった。通常の潜水艦戦力で日本の船舶を大量に撃沈し、大打撃を与えたのだから、十分だろう。

 

第二次世界大戦におけるミゼット・サブマリンは、費用対効果を見込まれて、特に生産力が劣っていたり、劣勢となった国々(日、独、伊)が使用したが、狙いどおりの戦果をあげることは少なかった。目的を限定し、それに沿った運用を心がけたイタリア、イギリスは、損害に引き換え、まずますの成果をあげた。日本、ドイツは切り詰められた潜水艦であるミゼット・サブマリンに過剰に期待を寄せ、用法は二転三転し、追い詰められた末期では、通常の潜水艦でも過酷な任務に投入された。投入の時期、周辺環境、運用法を得ていない兵器は役に立たない。

いかなる兵器も限定された存在であり、限定された目的にしか使用できない。戦局を覆す万能兵器は存在しないのである。使用できる幅の狭いミゼット・サブマリンこそ、最新の注意を払った運用をすべきだった。ミゼット・サブマリンは、その当然のことをよくよく再考させる兵器だろう。

 

主要参考文献

 

決戦特殊潜航艇 佐々木半九 今和泉喜次郎 朝日ソノラマ 

本当の特殊潜航艇の戦い方 中村秀樹 光人社

帝国海軍 図説特殊潜航艇全史 奥本剛 学習研究社 

ラスト・オブ・カンプフグルッペ 高橋慶史 大日本絵画 

続ラスト・オブ・カンプフグルッペ 高橋慶史 大日本絵画

ファイティングシップ・シリーズNo.15 モンスターとミジェット潜水艦 デルタ出版  

 

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